いいマイク とは
良質な録音のためにはできるだけ良いマイクを選びたいですね。そもそも、良いマイクとはどんなマイクでしょう。それは必要な音だけをきれいに(正確に、魅力的に)取り込むマイクだと私は考えます。ノイズを拾わないのはもちろん、その音源の持ついちばん欲しい音の成分をしっかりと取り込むことが重要です。つまり、絶対的な良いマイクというものはなく、音源との相性が求められます。
では、朗読やナレーションの場合、いちばん欲しい成分とはどんなものでしょうか。ひとつは心地よい「音」。人の声に含まれている幅広い周波数を繊細に拾うこと。もう一つは「言葉」として聴き取りやすい成分。語音として明瞭で説得力の感じられる音です。これらの両立は意外と難しく、どちらを重視するか意図を持って選択しなればならないことも多いでしょう。
たとえばiPhoneの内蔵マイクは人の声の聴き取りやすさを重視してチューニングしている、つまり後者に特化していると言えるかもしれません。
マイクの種類
一般的に使われているマイクはダイナミックマイクというやつです。カラオケやイベントの司会などで使っているのは間違いなくこのタイプでしょう。
朗読やナレーションの音声を拾うには、やはり繊細に拾ってくれるマイクが欲しいです。プロのスタジオ録音の現場ではコンデンサーマイクが常識。コンデンサーマイクの特徴は、
- 感度が良く、繊細に音を拾う
- 録音可能な周波数帯域が広い
- 感度がいい分、ノイズにも敏感
- ダイナミックマイクと比べて高価
- ミキサー等の接続機器からの電源供給が必要(ファンタム給電)
- デリケート(物理的にも、電気的にも、環境的にも)
- 近接効果が少ない
近接効果とは、音源をマイクに近づけるほど低域が強くなる効果です。ダイナミックマイクは近接効果を発揮する前提で近づけて使うのが基本です。こうすることにより、より太く・前に出る音になります。逆に言うと、距離をとりすぎると存在感の弱い音になりがちです。また、マイクとの距離の変化が音質(低域の強弱)に影響を与えやすいので、一定の距離を保つ必要性が高いです。
これに対し、コンデンサーマイクはダイナミックマイクよりも距離をとって使うのが普通です。
あくまでも私の主観ですが、ダイナミックマイクは芯・圧のある音、コンデンサーマイクは細やかに包み込む音という印象です。
ダイナミックマイクの例<SM58>
ダイナミックマイクの定番、
SHURE SM58です。

SM58で録音した音声(マイクとの距離:10cm)
再生できない場合、ダウンロードは🎵
こちら
コンデンサーマイクの例<NT1-A>
コンデンサーマイクの中ではグレードは低いですが
RODE NT1-Aを挙げます。

NT1-Aで録音した音声(マイクとの距離:20cm)
再生できない場合、ダウンロードは🎵
こちら
違う種類のコンデンサーマイク
ここまで書いていたコンデンサーマイクは実はDCバイアス型を指しています。これ以外にも「コンデンサー」と名の付くマイクがあり、広義ではコンデンサーマイクに含まれることも多いです。それ故、誤解や混乱を招くこともしばしばあるのでここではっきりしておきましょう。
エレクトレットコンデンサーマイク
- 安価で、PCなどの内蔵マイクの他、多用途
- 音質は価格なりで、細い
- 数ボルトの電源が必要(プラグインパワー)
バックエレクトレット型コンデンサーマイク
- 性能、価格ともにDCバイアス型とエレクトレット型の間くらい
- 数ボルトの電源が必要
よくあるのが「高価なはずのコンデンサーマイクがこんなに低価格」と思って購入したら実はエレクトレットコンデンサーマイクで値段相当の性能でしかなかったという話。「コンデンサーマイク」という言葉に目が眩まないように気を付けましょう。
ダイアフラムの大きさ
コンデンサーマイクにおいて振動を受ける部分をダイアフラムと言い、大きいほど感度が良く、小さいほど高域がシャープになります。人の声にはラージダイアフラムが向いているようです。
サイドアドレスの罠
ラージダイアフラムのマイクは殆どは横方向から音を拾うようになっています。これをサイドアドレスといいます。よく間違えられます。Amazonなどでは販売者でさえ分かっていない例があるので注意が必要です。


※Blue Microphones のサイトより画像を借用
コンデンサーかダイナミックか
「いい音で録るならコンデンサーマイクでしょ」と言いたいところですが、それはいい音源といい環境が揃ってのこと。そうでない場合はダイナミックマイクという選択も充分あり得ます。以下の点を考慮しなければいけません。
- コンデンサーマイクは感度がいいので必要のない音も拾いやすい。したがって雑音や反響の多い環境は向かない。
- 同様に、発声が不安定で言語以外の音が出てしまうとそれもはっきり拾いやすい。
- プロの現場ではほぼ間違いなくコンデンサーマイクを使うので、そういう現場で仕事をする機会のある人は普段から慣れておいた方がいい。
- 同様に、舞台での朗読やMCの機会もあるかもしれないのいでダイナミックマイクの一本くらい持っていた方がいい。
ということを考えるとこうなります。↓
種類と価格・性能の関係
性能と価格は比例すると仮定し、マイクの種類毎の価格帯と適性周波数範囲の傾向を図にしてみました。(筆者の個人的印象による)
余談
レビューでよく聞く「ホワイトノイズ」とは
YouTubeやAmazonのマイクレビューでホワイトノイズが多いとか少ないとかいうことをよく耳に・目にします。しかし、これは恐らく間違った使い方です。
まず、用語の定義の問題。そもそもホワイトノイズはすべての周波数で等しいエネルギーを持たせた人工的な音声です。意図せずマイクに乗ってしまうものではありません。ホワイトノイズに特性の似た「サー」という高周波のノイズを指しているのでしょうか。それならば「ヒスノイズ」と呼ぶのが適切です。
もう一つは、ノイズの聞こえる量でマイクの性能を語っていいのかという問題。感度が良ければノイズもしっかり拾いますから、逆に感度の良さの結果としてのノイズかもしれません。指向性の狭さを謳ったマイクなら「ノイズガー、性能ガー」と言うのも分かります。また、完全無音の環境でマイクそのものから発している音を測定したのならばマイクの性能として判断しても差し支えないでしょうけど。
買ったマイクが思ったよりもノイズが多く入るという場合はまずマイクの選択が良くなかったのではないかと疑ってみましょう。いや、買う前に正しい選択をしましょう。環境を最適化しましょう。
posted by rodoku_DB at 2020-10-06
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