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05月10日

Audacityによるノイズ除去[朗読・ナレーションのための自宅録音ガイド]

この記事では私の経験から身につけたノイズの除去のノウハウをAudacity(2.4.2 Mac)を使った例で紹介します。サンプル音声は「羅生門」の冒頭の「ある日の暮れ方のことである」をなぜか二回繰り返してノイズ多めで録音しました。ノイズ多めとは言ってもPCのスピーカーで聴く分には分からないかもしれなせんが、ヘッドホンで大きめの音で聴くとはっきり分かります。ここで扱った音声はWAVE形式ですが、お聴き頂ける音声はそれをMP3に変換したものです。また、波形等の画像はクリックすると大きめのサイズで開きます。

除去前の音声波形
除去前の音声波形

以降、ノイズの種類による除去方法を詳しくご紹介します。

定常ノイズの除去[朗読・ナレーションのための自宅録音ガイド]

PCのファンなどの環境音が定常的にマイクに入って声の背景に「サー」とか「ブーン」とか聞こえてしまうことがあります。こういったノイズを一括して除去、あるいは低減することがAudacityでも出来ます。原理は、@ノイズをプロファイリングして、A全体の音声からプロファイリングしたノイズ成分を引き算して減らす、ということです。とはいえ、定常的といってもムラがありますから、除去しきれなかったり必要な成分から余計に引いてしまったりと完璧ではありませんがかなり効果的です。

さて、具体的にAudacityの操作をご説明しましょう。まず、突発的なノイズのない安定した無声部分を探して選択し、メニューから[エフェクト]-[ノイズの低減]。

audacity_定常部分を選択

「ノイズの低減」ウィンドウが開かれますから、ステップ1の[ノイズプロファイルの取得]をクリック。

audacity_定常ノイズをプロファイリング

今度はノイズを除去する範囲を指定します。一括して除去したいので波形の全部を選択します。

audacity_全体を選択

そして、再びメニューから[エフェクト]-[ノイズの低減]。

audacity_定常ノイズ除去を実行

今度はステップ2です。設定が色々ありますが、分からなけれればデフォルトのまま「OK」をクリック。

audacity_定常ノイズ除去後

これで定常ノイズの低減が出来ました。元の音声の定常ノイズは余り多くないので分かりにくいかも知れませんが、波形のジリジリした部分が少なくなっています。

無声部分のノイズの除去[朗読・ナレーションのための自宅録音ガイド]

無声とはここでは文と文との間のように声を発していない状態を指します。声以外の音が鳴っている可能性もあるので無音とは区別します。このときのリップノイズ、ブレス音、声門閉鎖音(*)、飲み込み音、ペーパーノイズ、その他突発的な環境音等を除去します。やり方は何通りかあります。

(*私の場合、緊張が原因で発語の直前に一瞬躊躇して声門を閉めたりして声門閉鎖音が出ることがあります。)

  1. ノイズを切り取ってしまう
  2. 無声の範囲を完全に無音化してしまう
  3. 定常音(声を出していない時にマイクが自然に拾う音、その他の電気的なノイズなども含む)をコピーする

一つ目の方法は、切り取ることにより無声部分が短くなっても無視できるクリック音などの短いノイズの場合に向いています。
二つ目は定常音が小さい時に使えます。目安としては声を出している部分で定常音の存在が気にならなければOKでしょう。定常ノイズが多い場合に完全に無音化してしまうと、発声部分でいきなりノイズが重なって聞えて不自然です。そのような場合は三つ目の方法が適しています。

では、下の図で示すノイズをそれぞれの方法でどう除去するかを説明します。

audacity_除去大将ノイズ
除去する箇所
(1)ノイズを切り取る

ノイズ部分が無視できる程度に短ければ、カットしてしまいます。ノイズ部分を選択してメニューから[編集]-[削除⌘K]、またはDELETEキー押下。切り取り([編集]-[切り取り⌘X]、または切り取りボタンをクリック)でもいいですが、この場合はカットした部分がクリップボードに保存されます。

audacity_ノイズカット前
ノイズ範囲を指定してカット
ノイズ部分カット後のAudacity画面
ノイズ部分カット後
(2)無声部の無音化

無声部分を範囲選択し、無音化機能で無音化します。メニューから[編集]-[特殊な削除・切り取り]-[無音化⌘L]、または無音ボタンをクリックします。

無音化範囲を指定したAudacity画面
無音化範囲を指定して無音化
範囲指定して無音化した後のAudacity画面
無音化後
(3)定常音のコピー

ノイズを消したい範囲と同じ時間幅の定常部分を範囲指定してコピー(メニューから[編集]-[コピー⌘C]、またはコピーボタンをクリック)した後、消したい範囲を選択して貼付ける(メニューから[編集]-[ペースト⌘V]、または貼付けボタンをクリック)。

コピー元の範囲を指定したAudacity画面
コピー元の範囲を指定してコピー
置換え対象範囲を指定したAudacity画面
置換え対象範囲を指定して貼付け
置換え後のAudacity画面
置換え後

以上の三通りを上手く使い分けましょう。他にも「ノイズの除去」「クリックノイズの除去」などのエフェクトもありますので試してみて下さい。

05月11日

リップノイズの除去[朗読・ナレーションのための自宅録音ガイド]

ここでは、口中で鳴る「ピチャ」「ネチャ」(「パチッ」と聞えることもあります)というノイズを扱います。(唇が出す音は除去したことがないので分かりません。) リップノイズは発語の直後が多いのですが、発語中にも出ます。

●リップノイズの発見

耳で聞いて(性能の良いヘッドホンで確認)気にならなければ放っておけばいいです。気になる場合はそのノイズがあるのが波形のどの部分かを詰めていきます。

スペクトラム表示で見つけることもできます。下の図は、上段のトラックを下段にコピーし、下段をスペクトラム表示に切り替えたものです。5kHz辺りで数ミリ秒、濃く出ているところがあったら怪しいです。

スペクトラム表示のAudacity画面

この辺かなと当たりをつけたら波形を拡大します。以降、ひとつ目の0.8秒あたりのノイズ除去作業を具体的に説明していきます。0.8秒辺を位置選択して時間軸を拡大していくと……。

リップノイズ拡大波形

ありました。これは発見すると嬉しくなってしまうぐらいの非常に除去しやすい波形です。0.804〜0.806秒ぐらいの2ミリ秒強の間に波が10個ぐらいでしょうか。2ミリ秒の間に波が10個ということは1秒当り5千個の波があるということですから、周波数にすると5kHz。スペクトラムで濃く出ていた周波数と一致します。この細かな波を除去します。このやり方も何通りかあります。

(1)ノイズ部分を削る

ノイズの波形だけをカットする方法です。これは無声部分では有効ですが、それ以外では使えません。試しにやってみましょう。カットの仕方は無声部分のノイズ除去と同じです。

ノイズ波形を選択したAudacity画面
ノイズ波形を選択
ノイズカット後ののAudacity画面
ノイズカット後

やはり、継ぎ目で尖った不自然な波形になりました。こういう波形は余計な倍音を含み、結果としてノイズになるので避けたいです。

(2)ノイズの乗っている波を削る

前記のような現象を避けるためにキリのいいひと波単位でカットする方法です。選択範囲はゼロレベル線(X軸、時間軸)との交点から交点、上りで始まったなら上りで終る、下りで始まったのなら下りで終るようにするとカット後の波形も自然につながります。

ノイズの乗っているひと波を選択したAudacity画面
波の選択
ノイズの乗っているひと波をカットした後のAudacity画面
カット後
(3)ノイズの乗っている波を置き換える

波を丸ごと削ってしまうと影響が大きい場合は形の似ている波形(大概すぐ隣にあります)をコピーして貼り付ける方法もあります。

コピー元波形の範囲を指定したAudacity画面
コピー元波形の範囲を指定してコピー
置き換え対象範囲を指定したAudacity画面
置き換え対象範囲を指定して貼付け
置き換え後のAudacity画面
置き換え後
(4)ノイズ部分を「修復」する

Audacityの機能で「修復」というエフェクトがあります。これにより、きれいな滑らかな波形になり、結果的にリップノイズが除去されたのと同じ効果が得られる場合があります。場合によっては本来の波形とは似ても似つかない波形になることもありますから、そういう場合は別の方法で除去するしかありません。

ノイズ波形を選択し、[エフェクト]-[修復]を選択します。

ノイズ波形を選択したAudacity画面
ノイズ波形を選択
ノイ修復後のAudacity画面
修復後
(5)ノイズ部分を手書きで滑らかにする

Audacityには「ペンツール」というのがあって波形を手書きで描くことができます。この機能を使ってノイズの細かい波形を滑らかな線に書き換えます。

ペンツールで描くためには、まず波形に点が現れるまで時間軸を拡大します。それからペンツールボタンをクリックしてペンツールモードに切り替え、ペン型のマウスポインターをクリックしながら動かして任意の線を引きます。

点が見えるまで拡大されたノイズ波形
波形を点が見えるまで拡大
手書き修正中のノイズ波形
手書き修正中

iZotope RXを使ったリップノイズの除去[朗読・ナレーションのための自宅録音ガイド]

iZotope RXというノイズ除去を目的としたソフトウェアがあります。現在はバージョン8が出ています。このソフトウェアには様々なノイズ除去機能や劣化した音声を補正する機能があり、それらの機能を使ってリップノイズを除去することもできます。
プロが使うような高価なものなので、素人を想定したこの記事群の趣旨からは外れますが、広く有効な情報と考えてご紹介することとします。

まず、どんな感じのソフトウェアか、画面をご覧下さい。

iZotope RX 全体像

波形とスペクトログラムとが重なって表示されます。右横にツールボタン、波形の下右側に表示・選択方法を指定するボタンがあります。使うのはこの辺りです。

リップノイズの除去には、少なくとも二つのツールを使えます。ひとつは、Spectral Repairツールを使った個別除去、もう一つはMouse De-clickツールを使った一括除去です。各々をページを分けて解説します。


タグ:iZotope RX